赤ちゃんがなでられて落ち着く仕組み 研究グループが解明
ねむれない夜に、お父さんやお母さんが背中をやさしくなでてくれて、いつの間にかねむっていた。そんな思い出はありませんか。赤ちゃんも、背中をなでられると泣きやんだり、動きが静かになったりします。これは昔から多くの人が気づいていたことです。けれども、そのとき体や脳の中で何が起きているのか、なぜ落ち着くのかは、長い間よく分かっていませんでした。
2026年7月7日、「東邦大学」医学部の「吉田」さちね講師と「船戸弘正」教授らの研究グループが、赤ちゃんがなでられて落ち着く仕組みを解明したと発表しました。「麻布大学」「筑波大学」、東京大学、国立障害者リハビリテーションセンター研究所との共同研究で、実験は何年もかけて行われました。この研究の論文は2026年4月10日にインターネットで先に公開され、7月3日に学術誌 Communications Biology に正式に出ました。
研究グループは、まず0歳から2歳までの子どもとお母さん15組に協力してもらいました。背中をなでると、赤ちゃんの頭と下半身の動きがはっきり減りました。同じようになでても、後頭部や腹では動きは減りませんでした。なでる速さは1秒あたり平均で約10.5センチメートルでした。これは、心地よさを脳に伝える神経「C触覚線維」がいちばんよくはたらく速さと同じでした。
次に、赤ちゃんのマウスで調べました。背中を3分間なでると、筋肉の動きと「心拍数」が下がりました。さらに、ぐっすりねむっているときと同じくらい、ゆっくりした脳の波が増えました。つまり、ねむりに入りやすくなったのです。ひとりぼっちにされてストレスを感じているときには、ストレスホルモンであるコルチコステロンが増えるのをおさえるはたらきも見られました。
ところが、母マウスとふれ合う経験がほとんどないまま人工飼育で育った赤ちゃんマウスでは、こうした反応がどれ一つ起きませんでした。そこで研究グループが、ふつうに育ったマウスと人工飼育のマウスで、脳の「視床下部」の遺伝子のはたらきを比べたところ、人工飼育のマウスでは「Cacna1b」という遺伝子のはたらきが大きく下がっていました。さらに、ふつうに育ったマウスでこの遺伝子のはたらきを実験でわざと弱めると、人工飼育のマウスと同じように、なでても落ち着かなくなりました。
ここで、記事に出てきた言葉を整理します。「視床下部」は、脳の奥にあって、体温やホルモン、ねむりなどを調節している部分です。「C触覚線維」は、ゆっくりやさしくさわられたときによくはたらき、心地よさを脳に伝える神経です。「心拍数」は、1分間に心臓が動く回数のことです。「Cacna1b」は、カルシウムという物質が体の中を出入りする通り道(カルシウムチャネル)をつくるのに関わる遺伝子です。「触覚過敏」は、さわられることを人よりつらく感じることをいいます。
この研究は、なでられて落ち着く力が生まれつき決まっているのではなく、育つ間のふれ合いの経験と、脳の遺伝子のはたらきによって育っていくことを示しました。研究グループは、この成果が、たしかな研究の結果にもとづいた育児や保育に生かされ、「触覚過敏」や強い不安を感じる子どもを理解し、手助けすることにつながると期待しています。だれかにやさしくふれられる時間は、心と体を守る大切な時間なのかもしれません。